基礎知識
給与明細の作成手順とは? 必要書類・データや計算方法・書き方まとめ

給与明細は、法定三帳簿と呼ばれる労働者名簿や賃金台帳、出勤簿とは異なり、記載方法が法律で定められていません。
しかし、社会保険料や所得税など給与から控除項目がある場合、従業員に通知することが義務付けられているため、企業は従業員に給与明細を発行する必要があります。
- 給与明細の作成手順や計算方法、書き方
- 給与明細の作成に必要な書類やデータ
- 給与明細の作成に伴うトラブルと対処法
- 給与作成には適切なデータや書類集めが必要
- 控除項目によって料率が異なる
- 給与明細作成の効率化にはシステム導入の検討が必要
目次
給与明細の作成に必要な書類・データ
給与明細を作成する上で、必要な書類・データをまとめました。
参考にしてください。
- 勤怠記録
- 住民税課税決定通知書
- 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
- 保険料額表および保険料率表
- 源泉徴収税額表
タイムカードなどの勤怠記録
給与明細は、タイムカードなどの勤怠記録を基に作成します。
タイムカードとは、従業員の始業時刻と終業時刻を打ち込むカードで、タイムレコーダーに差し込み、時刻を打刻して記録します。
勤怠管理システムを導入している企業の場合、ICカードや生態認証、アカウントなどを用いて記録します。
住民税課税決定通知書
毎年1月31日までに給与支払報告書を地方自治体に提出すると、住民税課税決定通知書(特別徴収税額の通知書)が、5月31日までに地方自治体から送られてきます。
市区町村から、従業員ごとの毎月の住民税の納付額を計算した通知書が企業あてに送られてきたら、6月から翌年5月まで従業員の毎月の給与から差し引きます。
健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
7月に健康保険・厚生年金保険の被保険者報酬月額算定基礎届を提出すると、その情報を基にした標準報酬決定通知書が作成され、送られてきます。
送られてきた通知書には新しい標準報酬月額が記載されており、その標準報酬月額を基にして毎月の給与の社会保険料を計算します。
新しい標準報酬月額が適用されるのは9月からです。
保険料額表および保険料率表
全国健康保険協会の「都道府県毎の保険料額表」の標準報酬月額に当てはめることで、健康保険料を求めます。
※健康保険料は都道府県ごとで異なるため、全国健康保険協会の公式サイトでご確認ください。
【参考】令和2年度保険料額表(令和2年4月分から) – 全国健康保険協会
全国健康保険協会の健康保険料率は毎年改定されるため、最新の保険料率を確認する必要があります。
源泉徴収税額表
源泉徴収税額表とは、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収するための税額を計算する表です。
所得税は、総支給額から保険料等の控除額、非課税支給額を差し引いた課税対象支給額を基に、扶養親族の人数で税額が決まります。
※年度によって税額が異なる可能性があるため、支給対象の年度の表を国税庁の公式サイトから確認する必要があります。
給与明細の作成方法・手順
給与明細の作成手順をまとめました。

勤務時間・日数の集計および有休残日数の計算
タイムカードの勤怠情報から、実際の出勤日数や勤務時間を計算します。
有給休暇を使用している場合は、休暇の残日数の計算も必要です。
有給休暇の計算時には、付与日数および失効日数も考慮します。
残業時間の集計および時間外手当の算出
集計した勤務時間の中から、普通残業と深夜残業、休日労働の時間をそれぞれ算出します。
残業時間がある場合、残業単価を算出し、時間外手当を計算します。
時間外手当=時間外労働時間数×1時間あたりの賃金×割増率
▼労働基準法における割増率の最低基準
時間外労働 | ・法定労働時間を超えた労働時間に対して、通常の給与の25%以上割増 ・月60時間を超える時間外労働は50%以上の割増 |
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休日労働 | ・法定休日に労働した場合、通常の給与の35%以上割増 |
深夜労働 | ・労働基準法で深夜と定められる午後10時から午前5時まで労働した場合、通常の給与の25%以上割増 ・時間外労働と深夜労働が重なった場合は、50%以上の割増 ・休日労働が深夜におよんだ場合は60%以上の割増 |
企業によっては時間外手当の割増率が上記を上回る場合もあるため、給与規程などで確認が必要です。
各種手当の算出
通勤手当や資格手当、役職手当など、企業によってさまざまな手当がありますが、該当する手当の金額を計算します。
多くの場合、各種手当は固定となっていますが、企業によっては欠勤日数によって日割り計算をする場合もあります。
各種手当は、所得税の課税対象外にあてはまるかどうかが重要です。
通勤手当では交通機関を利用している場合は15万円まで、自動車や自転車などで通勤している場合は距離によって4,100円から31,600円までと、課税対象外となる手当金額の上限が決まっているため、計算の際には注意が必要です。
不就労控除・欠勤控除の算出
遅刻・早退などの不就労や欠勤があった場合は、もともと支払う予定の賃金より、遅刻や早退、欠勤をした時間分の賃金を差し引いて給与を支給します。
不就労控除や欠勤控除に関しては、労働基準法による明確な定義がなく、企業ごとの就業規則や賃金規定で定められています。
企業によって、遅刻早退は「不就労控除」、終日の休みは「欠勤控除」とする場合もあるようですが、いずれにせよ実際に働いていない時間の賃金を控除するため、「不就労控除」と「欠勤控除」は同じ意味を表しています。
一般的な計算方法として、以下の計算法があります。
遅刻・早退(不就労)控除額=(控除対象の支給合計/月間所定労働日数)÷8×遅刻・早退時間数
欠勤控除額=(控除対象の支給合計/月間所定労働日数)×欠勤日数
給与の総支給額の計算
勤務時間の集計や残業時間の計算、各種手当や不就労控除・欠勤控除の計算が完了したら、すべてを合算して、総支給額を計算します。
総支給額=基本給+時間外手当+各種手当
不就労控除や欠勤控除は基本給からマイナスしますが、控除すべき金額は月給制や日給制により異なります。
(欠勤等の扱い)
第43条 欠勤、遅刻、早退及び使用外出については、基本給から該当日数又は時間分の賃金を控除する。
2 前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。
(1)月給の場合
基本給÷1カ月平均所定労働時間数
(1カ月平均所定労働時間数は第38条第3項の算式により計算する。)
(2)日給の場合
基本給÷1日の所定労働時間数
【引用】厚生労働省 第6章 賃金
控除額の計算
健康保険や介護保険、厚生年金保険、雇用保険、所得税、住民税などの控除項目を集計し、控除合計額を算出します。

社会保険料
健康保険と介護保険、厚生年金保険については、全国健康保険協会や日本年金機構から送付される納付書をもとに天引きします。
雇用保険料は、厚生労働省が公開している「雇用保険料率表」を参考に、以下の計算式で求めます。
雇用保険料=その月の支給額合計×雇用保険料率
所得税
年間所得に対する税金を企業があらかじめ差し引くことを、源泉徴収といいます。
給与から源泉徴収をおこなう場合、国税庁が毎年公開している「給与所得の源泉徴収税額表」を参考に、計算します。
住民税
特別徴収とは、企業が住民税を従業員の給料から差し引き、代わりに納付することを指します。
従業員の住民税の計算は、基本的に企業側がおこなう必要はありません。
従業員ごとの毎月の住民税の納付額を計算した納付書が、市区町村から企業あてに送られてきます。
差引支給額の算出
控除額を合算し、総支給額から差し引いた金額が差引支給額になります。
差引支給額=総支給額-総控除額
総支給額は基本給に時間外手当や各種手当を含めたもの、総控除額は社会保険料や各種税金、労使協定による控除額を集計したものです。
給与明細の作成に伴う想定トラブルと対処法
給与明細の作成にあたり、集めるべき書類・データが多く、計算工程も煩雑であるため、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 担当者の人為的な給与計算ミス
- 控除項目の料率の入力間違い
- 従業員の申請間違い
給与明細の作成に伴うトラブルに備え、以下の対応をおこなっておきましょう。
- 担当者と上長によるダブルチェックの実践
- 料率情報を自動的に反映できる給与明細システムの導入
- 申請ミスの場合の給与規定の改定
給与明細作成の流れ:まとめ
給与明細の作成は、勤怠の集計を元に各支給額の算出、各控除額の算出をおこなうことが基本となります。
- 社会保険料は厚生労働省の「保険料率表」を基に計算する
- 所得税は国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」を基に計算する
- 住民税は地方自治体の特別徴収税額決定通知書を基に計算する
- 協定控除をおこなう場合、労使協定による取り決めがなければ法律違反となる
- 社会保険料や税などの控除項目は保険料率や税率の改定がおこなわれるため、最新の情報を確認する
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