- ①各附属病院での給与計算・社会保険業務を本部に集約させたことにより年末調整の処理件数が集約前の4倍に
- ②年末調整の法改正対応による教職員の負荷が大きいこと
- ③年末調整において教職員対応の工数が膨大であること
- ④紙による離職票作成・申請作業の手間
- ⑤紙による育休・産休手続きの手間
- ①年末調整の処理件数は集約前の4倍になるも、導入後の残業時間は大幅削減
- ②法改正はシステム側で自動対応してくれるため負荷が減少
- ③教職員からの誤申請は10分の1に
- ④紙の離職票作成を効率化し、役所への提出作業、教職員への郵送作業をゼロに
- ⑤育休手続きの管理の手間も効率化
「まずは年末調整から業務効率化」となった理由とは
はじめに事業内容について教えてください。
下原さま :
当法人は、順天堂大学として、教育・研究・病院の運営をおこなっております。
大学と病院を運営されているということですが、そのなかで下原さま、白府さま、伊藤さまの業務はどのようなものでしょうか?
下原さま : 私たちは総務局・人事部に所属し、学校法人全体の人事・労務・人件費管理業務に携わっております。白府や伊藤は主に給与・社会保険・福利厚生の実務を担当しており、私は課長として全体の統括をおこなっております。オフィスステーションの導入については、私を含め課員6名で進めました。
ありがとうございます。2021年に「オフィスステーション 年末調整」を、2022年に「オフィスステーション 労務」を導入されていますが、導入を検討されるきっかけは、そもそも何だったのでしょうか?
下原さま :
そもそものきっかけは、大学や大学病院の職員の役割や業務内容が大きく変わろうとしていることにあります。
私たちのこれまでの業務の在り方は、教員、医師や看護師などの業務の支援や事務手続きが中心で、ルーティン的な性格の濃い仕事にとどまりがちでした。しかし、社会の変化とともに、職員の業務も非定型・戦略的な業務など、難易度が高く、広範囲なものに変化しつつあります。
このような環境の変化のなかで、私たちの担当業務の効率化、仕事の質・付加価値の向上を図る必要性から、2019年に「給与・社会保険業務センター化プロジェクト(※1)」が始動しました。これが直接的なきっかけです。
(※1)学校法人順天堂における6つの附属病院でそれぞれおこなっていた給与計算や社会保険業務を、段階的に本部に集約するプロジェクト。
「まずは年末調整から業務効率化」となったのはなぜでしょうか?
下原さま : 法改正が続くことで年末調整がどんどん複雑になってしまったことが大きな要因です。さらに、紙ですと「書いてある字が読めない」「転記でミスが発生する」ということも起こっていました。これらのリスクや職員への負荷が、かなり大きく改善の必要性を以前から感じていました。
白府さま :
私も、紙面による年末調整は、教職員にとって難易度が高いという印象がありました。各種控除申告書には専門的な言葉が並ぶことに加え、提出書類が増え、書式が変更になるなど、法改正に伴う年末調整の複雑化が著しく、人事部のカウンターには質問のために教職員が長蛇の列をなす状態でした。
当時は朝から夕方までカウンターで年末調整の問い合わせ対応に追われ、17時から自分の仕事がスタートみたいな(笑)。そのような状況でした。
伊藤さま : 法改正や書式の変更の数々を見ていると、「社会的にも年末調整は紙での計算を前提とせずに進んでいる」という印象を受けていました。そんな中で、HRテックのイベントでオフィスステーションを知ったのが、導入を検討したきっかけです。
システム選定の決め手は「コストパフォーマンス」と「ピンポイントでの業務デジタル化」
そうだったんですね。年末調整システムを導入するにあたって比較検討をされたと思うのですが、比較した点や、オフィスステーションを選定した決め手を教えてください。
下原さま : コストと、業務単位でアラカルトにシステム導入ができる点を、重視しました。他社システムだと、既存のシステムの大部分を入れ替えなければならないというところも多かったです。その点、オフィスステーションは「年末調整業務だけを電子化」できますし、それゆえにコストも抑えられるという部分は大きかったです。
伊藤さま : 私は開発会社の事業ドメインという意味でもオフィスステーションが良いと考えていました。オフィスステーションを開発するエフアンドエムはもともとバックオフィスの支援をやっていた会社ですよね。他社はゲーム会社やソフト開発会社であったのに対し、オフィスステーションはバックオフィス支援の実績という点において上回っていると感じました。
そのような理由でオフィスステーションを選定していただいたということですが、デジタル化において、周囲の教職員などから反対はありませんでしたか?
白府さま :
教職員のなかには、デジタル化への懸念を示される方も若干名いらっしゃいました。そのため、各拠点をまわってデモ画面を用いて説明をおこない、「年末調整がこれだけ簡単になる」というところを強調しました。
また、年末調整を紙からデジタルへ変更することには、教職員側のメリットも多くあります。窓口の受付時間に左右されず24時間受付が可能になりますし、前年度のデータを引き継げば入力のミスを防ぐことができるので、メリットの面をしっかり説明することで理解を得ました。
そのような形で教職員の方の理解を得られたあとは、実際の導入作業に入られたと思うのですが、オフィスステーションの使用に関して難しいところはありませんでしたか?
伊藤さま : 注意深く対応する必要はありましたが、難しい部分はなかったです。マスターの設定作業自体は1日、2日で終わりました。
白府さま : 人事部には、年末調整の時期から入職した担当者もおりましたが、問題なくすぐに使いこなしていました。
年末調整で教職員からの誤申請は10分の1に
では、実際にオフィスステーションを使って2年目の年末調整を終えられて、いかがでしたか?
白府さま :
オフィスステーションでは教職員がPC・スマートフォンで「年末調整について、分かりやすくかみ砕いた質問に答える」という作業だけで完結できます。このため、「産休育休中の教職員が自宅から年末調整の申告できた」「24時間受付なので、窓口まで行かなくても良い」など、利便性が上がったと、実際の声として受け取っています。
また、2022年度は誤申請の件数が10分の1になったこともあり、修正やチェックの工数が大幅に減ったという担当者の声もありました。このあたりは教職員側と、年末調整を担当する職員の双方の効率化につながっていると感じる部分です。
伊藤さま :
使いやすさでいうと、特に2022年の「オフィスステーション 年末調整」は、我々からの要望に対して改善いただき、2021年度からのバージョンアップが有効であったと感じます。住宅ローン控除の申告部分が分かりやすくなっていましたし、他社の給与ソフトに連携するためのデータ出力についても強化され、システム連携がこれまで以上にラクになりました。
2021年の年末調整を終えていくつか機能改善の要望を出していたのですが、それらが実現され、機能が進化していたのは嬉しかったです。
処理件数が4倍になっても残業時間は大幅削減
「オフィスステーション 年末調整」導入による業務削減の試算などは出されていますか?
下原さま : 年末調整を本部に集約させたことに加え、法改正により複雑さが増したことで、作業の処理件数は集約化前に比べ4倍以上になりました。しかし、オフィスステーション導入後は、処理件数が増えたにもかかわらず残業時間は集約化前に比べて大幅に減っています。このため、一人当たりの人件費が減少し、労働生産性はかなりアップしたと考えています。
そのような声を聞けてうれしいです! では、2022年に導入された「オフィスステーション 労務」についても伺っていきたいと思います。こちらはどのような理由で導入されたのでしょうか?
下原さま :
社会保険や労働保険についてのデジタル化も給与計算の基幹システムで進めていたのですが、離職票関係の手続きと、育休関係の手続きのデジタル化だけが遅れていました。このため、年末調整システム同様にピンポイントでデジタル化する方法として、オフィスステーションを導入しました。
伊藤さま : 基幹システムでもできなくはなかったのですが、担当者が操作性の悪さを指摘していました。年末調整でオフィスステーションの使い勝手の良さは実感していましたので、自然と利用する流れになりました。
離職票の作成や育休手続きについても効率化
そうだったんですね。離職票や育休の手続きについては、毎月の処理件数はどれくらいなのでしょうか?
下原さま : 育休手続きはかなり多いです。順天堂医院(本院)には1,000名以上の看護師さんが在籍していますが、産休などで休職している方も一定数以上いるため、毎月、100件程度の申請があります。
かなりの数ですね! そのような状態がオフィスステーションを利用することで、どのように変化しましたか?
伊藤さま : 紙を使っていると手書きや書類郵送の手間がありますが、オフィスステーションを導入したことで、このような作業の手間が減りました。定量的な評価はしづらいのですが、オフィスステーションの導入によって作業効率化が図れているという実感はあります。
白府さま : 私の場合は離職票の作成など雇用保険得喪関係の手続きを担当していますが、オフィスステーションの画面がかなり見やすく、直感的に操作できる点に魅力を感じました。複数名で作業をおこなっていますが、直感的に操作ができるため、システムの使い方を説明する時間の削減や賃金データの引用による、転記ミスも防止できています。
ありがとうございます! 離職票作成や育休関係の手続きの効率化が進んだということですが、これから効率化していきたい業務などはありますか?
伊藤さま :
交通費申請の作業の効率化ですね。本学では交通費の変更がとても多く、たとえば今の時期(年度末頃)は就任・退任する方が多く、300件以上を抱えることになります。「オフィスステーション 労務」の機能の一つに交通費申請がありますので、これを使えればかなり効率化できるのではないか、と考えています。
交通費申請に関連する作業は、教職員が増えるに比例して増えていきますので、対策を打ちたい業務です。
白府さま : 私は現在の状況について、デジタル化の第一段階が終わったところいう認識です。オフィスステーションではないのですが、2019年度に就任や退職、休職や身上異動(氏名変更・転居)に係る資料ほぼすべてについての紙面提出をやめ、デジタル化しました。紙の作業で発生していた手間がなくなりましたが、利用者側の使い勝手などに課題がある状態です。今後は第二段階として、ユーザーインターフェースの改善や、システム同士の連携を強化することで、さらなる業務効率化を進めていきたいと考えています。
下原さま : 複数のシステムをシームレスにつなげることができれば、さらに単純作業が減少し、業務の効率化が図れ、担当職員のモチベーションアップ、ワークライフバランスの向上など、ひいては人材の定着に寄与すると思っています。
効率化の先に見据える「人事部としての付加価値の向上」とは
デジタル化やDXは、関係者が多いと難しい部分もあると思います。業務を進める上で大切にしている考えなどはありますか?
下原さま :
よく言われることではありますが、「人を大切にする。人材から人財への転換」ということを重視しています。
本日、お話した業務改善プロジェクト「給与・社会保険業務のセンター化プロジェクト」は、単に業務効率を上げる、運用を統一するということだけではなく、実践的な業務課題に対して、携わった職員に常に「自分ごと」という意識を持たせ、「一皮むける経験」を通して、「変革力を養成する」という能力開発(教育)を兼ねている点が重要なポイントです(※2)。
(※2)下原さまによる、職員の育成・教育に関する考察についての論文の詳細は、下記にてダウンロード可能です。
【PDFファイル】大学病院事務職員を成長させる 育成モデルに関する考察
白府さま : 個人的には、「相手の立場に立って考える」ということを大切にしています。実務を担う担当者がよくても、教職員が困るデジタル化はよくないという考えです。デジタル化を進めるにあたり、担当者サイドの利便性を上げることだけではなく、教職員側の立場になってより良いものを目指して業務改善・運用を構築していくというところに、私たちが存在する価値があると感じています。
伊藤さま :
デジタル化やDXは作業時間を圧縮する手段だと考えています。ですから「圧縮したのちに何をやるか?」も併せて考えています。
たとえば、私たちは給与計算業務を担当していますが、毎月の給与計算で扱う数字を分析すれば、「組織に今何が起きているのか?」がわかるはずです。内科医が血液の値から病気を見つけ出すように、「この手当が増えているから、組織はこういう状態だ」とわかる、そんなイメージをしています。このような分析は組織の未来を決める根拠のひとつになるはずなので、ぜひ実践して仕事の付加価値を高めたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました!