年末調整の電子化で「働き方そのものを変える」ことに成功
日本生命保険相互会社では、経理Gが中心となって「オフィスステーション 年末調整」を導入されたとうかがいました。まずは経理Gの岡田さん・小坂さん・星乃さんの業務について教えてください。
岡田さま :
私はもともと個人保険システム関係のプロジェクト運営を担当していたのですが、その後、経理課長兼本店税務室長となり、経理や税務、給与に関する業務を担っています。
小坂さま : 私は経理Gの課長補佐という立場で、内務職員の給与・賞与の支給や年末調整、それらに伴うシステム開発などを担当しています。今回のオフィスステーション導入に関しては、社内システムとのデータ連携部分を中心に担当しました。
星乃さま : 私は経理Gの副主任として、小坂のもとで職務についています。2022年3月まで異なる部署にいたので、年末調整の担当は今年が初めてです。
日本生命保険相互会社では2020年に従業員2万8,000名に対し、「オフィスステーション 年末調整」を導入。その後、対象従業員を3万3,000名にまで増やしておられます。最初に導入いただいたきっかけは何だったのでしょうか?
岡田さま : 当社では2010年頃から会社全体にペーパーレス化の動きがあり、まずはお客様向けのサービスからペーパーレス化を推進していたのですが、ここ数年でようやく人事・総務領域においても同様の構造革新の流れがやってきました。そこで、経理Gとして「紙の多い年末調整や給与明細関連業務でのペーパーレス化を進めたい」と声をあげたかたちです。
まずはフロント業務、続いてバックオフィス業務というデジタル化・DXの流れだったのですね。
岡田さま :
はい。ただ「DX」というと、できている部分とできていない部分があって。お客様に対するサービスの部分では、介在する人の体験ごと変革できたのでDXに近しいと思うのですが、社内の構造革新については「単なるペーパーレス化」という部分と「働き方そのものを変えるDX」が混在しています。
「オフィスステーション 年末調整」に関しては、ペーパーレス化を越えて、DXと呼べる取組みになったと考えています。「紙が電子になっただけ」でなく、私たちの働き方が大きく変わったところなので。
何万枚もの紙の配付・回収・確認に追われる「最も嫌な仕事」をなくすために
では、働き方が変わる「前」の状態について詳しく聞いていきたいと思います。紙で年末調整をおこなっているときは、どのような問題が発生していましたか?
岡田さま :
まず、経理Gから支社・本部という全国に所在する組織に紙の申告書を送付する必要がありました。毎年、「9営業日で年末調整の紙を配付・回収してください」と指示しており、それを受けて、各所属で申告書の配付が行われ、従業員が提出し、集まった申告書は経理Gに返送されてきます。こちらに書類が到着してからは、臨時のスタッフを追加雇用して不備がないか点検をするという流れでした。
これら一連の流れを限られた時間内で行いますから、経理G・所属・従業員のいずれにおいても、業務負荷が非常に大きくなります。わずか1~2名ほどの担当者が、何百名もいる従業員に対して膨大な量の申告書を配付・回収するといった所属もありましたし、従業員は5営業日ほどで申告書を書いて提出しなければなりません。返送を受けた経理Gでも、何万枚という紙を確認し、提出の遅れなどを許容しながら、源泉徴収票の作成まで進めていく必要があります。
毎年「何とか乗り越えられる」という状態が続いていたので、年末調整は「最も嫌な仕事」でした。従業員からは、「お客様に対するペーパーレス化は進んでいるのに、従業員向けのペーパーレス化は進まないんだね」と不満の声が聞こえてくることもありました。
少しでも現場を楽にするために不備基準を緩和するなど効率化の工夫はしていたのですが、「紙である以上、効率化に限界がある」と思い、声をあげたかたちです。
紙の年末調整の限界を感じ、構造改革のなかで年末調整のペーパーレス化を進められたのですね。導入で最も大変だった部分はどこでしょうか?
岡田さま :
構造革新プロジェクトの一つとして承認された後は、オフィスステーションの導入に向け、着々と新たな事務構築を進めていきましたが、承認を得るまでが難しかったと感じています。
どのようなところが難しかったのでしょうか?
岡田さま : 年末調整は経理Gにとって1年で最も大変な業務のひとつなのですが、逆にいうと、1年に一度、数日間しかない仕事です。残りの230営業日は作業負荷がほぼ変わらないので、ペーパーレス化の必要性の部分でどのように説得力を持たせるかを工夫しました。
「年末調整の電子化」の承認を得るために工夫したこと
具体的にはどのような工夫をしたのでしょうか?
岡田さま :
社会の環境変化という側面もありますし、経理担当者だけでなく従業員の声も定性的なデータとして織り交ぜました。
そもそも構造革新プロジェクトは「従業員向けのペーパーレス化・デジタル化」を目的としています。そこで現場の組織に直接出向いて従業員の声を聞くと、ペーパーレス化の要望として、年末調整が最も需要があるということがわかりました。この部分は強調しましたね。
「経理の現場スタッフが楽になる」という側面だけでなく、「従業員の満足度向上」という側面が評価され、プロジェクトが承認されたのですね。プロジェクトの承認後、システム選定に進むと思うのですが、他社比較はされましたか?
岡田さま :
はい。複数の年末調整ソフトを比較し、基本機能面、サポート範囲、視認性、コストなどをさまざまな観点で評価しました。
では、選考において最も重視したところとはどこでしょうか?
岡田さま :
視認性と、使いやすさですね。
新しい仕組みを導入する際は、「分からない」ということからハレーションが起きやすくなります。そのなかでできるだけスムーズに導入を進めるためには、システムの視認性と使いやすさがポイントになると考えています。
年末調整ソフトの中には、税務関連の難しい言葉を使用しているものも多いのですが、一般従業員にとってこれらの言葉は難解です。各サービスの比較において、いかに分かりやすく表現されているかは重視したポイントです。
また、法改正をタイムリーに反映しているかという点も開発企業によって差があります。しかし、私たちが自社システムの代替として使用する以上、法や制度改正に対する即応性はこだわりたいと考え、その面でもオフィスステーションを評価したかたちです。
自社システムとの連携はどうやって進めたのか?
年末調整ソフトとしてオフィスステーションを選定して、導入が決まった後は「着々と新たな事務構築を進められた」とのことでしたが、自社システムとの連携を担当された小坂さんはいかがでしたか?
小坂さま :
もともと紙の年末調整では、集めた情報を最終的に自社システムに打鍵するセンターに送付し、入力してもらっていました。オフィスステーション経由で情報を収集した際も、紙の年末調整と同じ結果が得られるよう、データの流れを整理することに注力しました。オフィスステーションとシステムの「つなぎ」の部分ですね。
導入初年度から、年末調整の対象者は約2万8,000名にのぼりましたが、データ連携を失敗してしまうと、全従業員の年末調整が実現できなくなってしまいます。従業員から集めた年末調整データをオフィスステーションからダウンロードした後、自社システムに投入するためのデータ加工を行うツールを作成したのですが、このあたりはかなり時間をかけて検証しました。
データ加工ツールの作成には、年末調整や税務に関する知識だけではなく、Excelやマクロの知識も必要になってくるので、実務を行うメンバー間で理解の差が生まれやすいと感じました。今後はチーム内でより理解を深められる仕組みを作っていきたいと考えています。
初年度はこれまでになかった作業が発生したことで、システム連携に工夫が必要だったのですね。では実際にオフィスステーションを導入して年末調整自体に変化は感じられましたか?
小坂さま :
「申告書の回収」は圧倒的に楽になりました。導入前は数万名分の申告書を扱っていたことから、膨大な量の紙に囲まれて本当に大変だったのですが、オフィスステーションだと画面上で申告状況や回収した情報が確認できるので。
また、紙の年末調整では、申告書の記入方法に関する問合わせがとても多かったのですが、オフィスステーションを導入してからはそのような問合わせも減りました。税務の専門知識を必要としない申告画面の効果が大きく出ていると思います。従業員からの照会回答には多くの時間を割いていたので、かなり効率化が図れていると感じます。
あとは、紙の配付・回収作業そのものがなくなったので、申告を行う従業員に時間的な余裕が生まれました。ここは「デジタル化で楽になったし、締切も延びてよかった」との声をもらっています。
星乃さま :
私は2022年度から経理Gに配属になったので、導入当時は従業員として年末調整電子化を経験しました。「年末調整がすごく簡単になったな」と思ったことはよく覚えています。
紙の年末調整は、正直に話すとあまり理解できていなかったので(笑)。オフィスステーションになって、「はい」「いいえ」で回答できる簡易な申告で年末調整が可能になったことにとても驚きました。
業務改善について、試算などは出されていますか?
岡田さま :
経理Gでの点検作業などに関しては約480時間、各所属仕分けや郵送に関して合計約3,800時間の削減ができたと試算しています。
構造革新プロジェクトでは総務系の業務負担を5割ほど減らしたいという目標だったのですが、年末調整のデジタル化については、かなり大きなボリュームで踏み込めたという印象です。
経理Gの担当業務の特性上、繁閑差が激しかったのですが、デジタル化が進むことで業務の波が徐々になくなり、どの時期であっても均質なサービスを提供できるようになったということを、大きな効果として実感しています。
導入後、2年目以降でさらに効率化を進めるには?
経理Gと、従業員の両方のエンゲージメントが向上したという感じなのですね。
岡田さま : そうですね。ただ1年目、2年目は「これまでマイナスだったものがゼロになった」という感じだったので、3年目の今年は「みんなでプラスの感覚を味わうぞ」と意気込んでいます。
2022年の年末調整で3年目とのことですが、1年目と2年目で何か変化しましたか?
小坂さま : オフィスステーションでの年末調整は前年の申告データを引継ぐことができるので、情報に変更がない従業員は入力を行う必要がありません。このため2年目の問合わせ数は、導入1年目と比較すると約半数まで削減することができました。今年は3年目ということで、更に分かりやすく、効率的な年末調整を実現したいですね。
何か問合わせを減らすための取組みをされているのでしょうか?
岡田さま :
主にマイナポータル連携を中心とした控除証明書等の電子申告推進です。マイナポータル連携で電子証明書を利用すると、ボタンを押すだけで証明書の取込が可能となり、紙を提出する必要もなくなります。控除に関しては問合わせが多い部分ですので、マイナポータル連携を推進することで更に問合わせを減らすことができると考えています。実際にマイナポータル連携を行った従業員からは、「これは楽だ!」という声ももらっていますし、今年は更に強力に推進しているところです。
具体的には、国がマイナポイントをアピールしていた6月末のタイミングで、全社に向けてマイナポータル連携をアナウンスするなどして周知を図っています。国の政策と連動させつつアプローチしています。
星乃さま : 私はマニュアル作りを担当していますので、昨年度に問合わせが多かった内容を念入りにマニュアルに盛り込むようにしています。その際に、「初めてオフィスステーションで年末調整をする方」「2年目以降の方」でマニュアルを分け、ニーズにあった情報発信をするようにも心がけています。
お話を聞いていると、「システム導入」にとどまらず、システムを活用して更に効率化していこうという意気込みが感じられます。経理Gでのデジタル化が進んだことで、これからやっていきたいことはありますか?
岡田さま : 冒頭の話に戻るのですが、当社のバックオフィスは「電子化・デジタル化」にとどまる部分と「DX」に近しい部分が混在しています。さまざまなシステムを導入することでデジタル化を進めていっているのですが、システムがバラバラであることでうまく効率化しきれていない部分もあります。今後はそれらを有機的につなげていくことで、DXと呼べるものにまで昇華していきたいと考えています。
システム同士の連携については、オフィスステーションが力を入れている部分ですので、今後もサポートいたします! 本日は貴重なお話をありがとうございました!